屋外で働く人 ― 刺されて覚えるアレルギー(ハチとマダニ)
このサイトはかぶれ(触れて1〜2日で出る湿疹)を中心に扱っています。ここでは少し外れて、刺されることで覚えてしまうアレルギーの話をします。
林業、造園、農業、測量、外回り。屋外の仕事では避けにくく、そして皮膚の症状だけでは終わらないことがあるからです。
【ハチ ― 「今まで平気だった」は根拠になりません】
刺された反応は3つに分かれます。
・ふつうの反応:刺された場所が赤く腫れて痛い。毒の作用で、アレルギーではありません
・大きな局所反応:刺された場所から広がって腫れ、数日続きます
・全身反応:刺された場所と関係のないところに症状が出ます。全身のじんましん、息苦しさ、めまい。これがアナフィラキシーです
危ないのは3つめで、前回まで平気だった人にも起こります。
〈始めて1年半が山です〉
養蜂を新しく始めた35人を5年間追ったギリシャの研究では、29%(10人)がミツバチ毒に感作され、その全員が始めて1年半以内でした。
フィンランドの養蜂家191人では、26%に全身反応がありました。全身反応が出やすいのは、養蜂歴が短い人と、巣での作業中に鼻や目の症状が出る人です。花粉症・喘息・アトピー性皮膚炎のある人は、トルコの調査で2つ以上あるとリスクが約11倍でした。
刺される回数が多い人ほど危ない、ではありません。危ないのは「始めて間もない人」と「たまに刺される人」です。
〈林業では、自己注射薬を持てます〉
日本では2015年から、ハチアレルギーのある林業従事者がアドレナリン自己注射薬を携行できる枠組みがあります。
実際に、頭と顔を刺されてアナフィラキシーを起こした48歳の作業者が、自分で注射して救命された報告があります。この人は何度も刺された経験があり、それまで一度もアナフィラキシーを起こしたことがありませんでした。
林野庁の資料では、ハチ刺されによる死亡は令和6年で18人。林業従事者では平成26年以降ゼロが続いていましたが、令和5年に2人出ています。
〈刺されるのを避けられないなら〉
ハチ毒の減感作療法があります。日本からの報告では、全身反応の既往がある人に行い、治療中に野外で刺された43人のうち41人(95.3%)は全身反応が出ませんでした。よく効く治療です。
【マダニ ― 数年後に、食卓で出ます】
こちらは、症状が出る場所も時間も、刺された場面から離れます。
マダニに刺されると、唾液に含まれるα-Galという糖が体に入ります。これに対するIgE抗体ができると、牛・豚・羊などの肉を食べたときに反応が出ます。糖なので消化に時間がかかり、食べて3〜6時間後に、じんましんや腹痛、アナフィラキシーとして出ます。
この時間差のために、肉と結びつきません。米国の農業従事者201人の調査では、診断までに平均3回近く受診していました。
〈屋外の仕事に多い〉
ドイツ南西部の森林作業員・狩猟者300人では、α-Gal特異的IgEの陽性が35.0%(一般住民と比べてオッズ比2.48)。値が高い人のうち8.6%に、実際に肉による遅発性のアナフィラキシーがありました。
日本でも起こります。潜在的な感作率は2.0〜4.0%と推定され、フタトゲチマダニの唾液腺タンパクにα-Galが含まれることが示されています。赤身肉アレルギーの患者30人中24人で、このタンパクに対するIgEが検出されました。
そして繰り返し刺されることが問題です。タカサゴキララマダニに2回以上刺された人は、1回だけの人よりα-Gal IgEの値が高くなっていました。「またか」と思って放っている人ほど、積み重なります。
〈がんの治療薬とも関係します〉
α-GalのIgEを持っていると、セツキシマブという抗体薬の初回投与でアナフィラキシーを起こすことがあります。何年も前の草刈りが、あとの治療で問題になる。そういうつながりがあります。
【共通していること】
・皮膚から入って、覚えます。荒れた手から食品のタンパク質が入るのと同じ構図です
・症状は皮膚で終わりません
・「今まで平気だった」は、次の保証になりません
【現場でできること】
〈ハチ〉
・巣に近づかない。見つけたら作業を止めて報告する。自分で駆除しない
・防蜂網、長袖、帽子。頭と首を守る。殺虫スプレーを携行する
・単独作業を避ける。倒れたときに気づく人がいる配置に
・全身症状が一度でも出たら検査を受ける。診断がついたら自己注射薬を持ち、同僚が場所を知っているようにする
・刺されたら座って安静に。歩かせない
〈マダニ〉
・長袖・長ズボン、裾を靴下やブーツに入れる。虫よけを衣服の上からも
・作業後、その日のうちに体を見る。わきの下、腰、足のつけ根、膝の裏
・食いついたマダニを無理に引き抜かない。口器が残り、感染症の危険もあります。医療機関で取ってもらう
・刺された日付を記録しておく
【受診するときに伝えること】
・何分後(ハチ)、何時間後(肉)に症状が出たか
・刺された場所以外に症状が出たかどうか
・刺された経験の回数と時期、仕事の内容
・肉の症状なら、何を食べたか(牛・豚・羊、内臓、ゼラチン)と、運動・飲酒・鎮痛薬が重なっていなかったか
関連記事:仕事で感作されるアナフィラキシー/職業別-農業/職業別-花屋・造園/あつかうもの別-花
【参考文献】
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