
治療・検査・予防

職業性皮膚疾患には2種類ある
「かぶれ」の原因は様々です。
誰もが触っただけで手荒れを起こしてしまったり、やけどの状態になってしまうような物質に対する反応を「刺激性皮膚炎」といいます。
一方で、食物アレルギーや金属アレルギー、花粉症のように誰かにとってはつよいアレルギーがでても、誰かにとってはまったく反応を起こさないというような物質もあります。そのような場合には、特定のかたのみがその物質を「攻撃すべき相手=アレルゲン」として認識してしまい、アレルギー反応を起こしてしまっていると考えられます。皮膚科領域では、このアレルゲンによるかぶれの皮膚炎を「接触皮膚炎」と呼びます。
なぜ、特定のヒトだけが「アレルゲン」と認識してしまうのか?
ある人にとっては「アレルゲン」とならない物質が、なぜ特定のヒトにとっては「アレルゲン」となり、「アレルギー症状=肌荒れや鼻炎、腹痛など」を引き起こすのか?という機序はよくわかっていません。
しかし、皮膚アレルギーに絞ってみると、「アレルゲン」として認識されやすい物質には共通点があることがわかっています。
それは、ハプテンと言って、皮膚の中に入っていくのにちょうどよい大きさ( 分子量1000以下)の化学物質で、これが、皮膚を通過して蛋白と結合すると、抗原提示細胞という相手を敵(異物)として認識する皮膚樹状細胞に捕獲され、体の中に「アレルゲン」として記憶されるといわれています。
アレルギーにおける「感作」と「惹起」
この体の中の免疫細胞たちが、特定の化学物質をアレルゲンとして記憶する過程を「感作」とよびます。
また、一度「感作」されてしまうと、ふたたび「アレルゲン」が体に入ってこようとすると反応し、炎症を引き起こして体から排出しようとします。このとき、皮膚であれば、「かぶれ」が生じると考えられています。そして、この過程を「惹起」と呼びます。
まずは「感作」されないこと。「感作」されてしまったら、「惹起」しないこと。
よって、アレルゲンに「感作」されないことが一番の予防となるので、感作されやすいとわかっている物質を扱うときには体のなかに吸収しないということが一番になります。
感想や手荒れなどで皮膚のバリア機能が破綻していると吸収されやすく、感作されやすい状態となりやすいので、日頃のスキンケアは最も大切となりますし、手袋や防護服の着用も有用な予防方法となります。
また、もし、パッチテストなどで感作されていることがわかった場合にはさらにその物質に当たらないようにすることが大切です。防護服や手袋、普段のスキンケアをおこない、それでも症状が悪化する場合などには配置転換や作業の制限なども有用なことがあります。
「感作」されやすい原因
化学物質などの分子の大きさが比較的小さいこと(分子量1000以下)
皮膚のバリア機能(角層など)が破綻していること
この二つを避けることが重要です。
「仕事のかぶれ」の分類
かぶれはその発症機序により、いくつかに分類することができます。
急性毒性皮膚炎 (一時刺激性皮膚炎)
原因物質の毒性によりだれにでもおこりうる皮膚炎です。化学熱傷もこのなかに含まれます。
水酸化ナトリウムによる化学熱傷
受傷直後よりも、数日後に境界明瞭な紅斑・びらんとなった。
接触じんましん
ある物質が皮膚に接触した後、15分程度で接触部位にみみずばれ(膨疹)を生じるものです。
原因として手袋に使用されるラテックスや調理師のあつかう小麦、トマト、レタス、オレンジ、もも、りんご、さくらんぼ、ばなな、エピ・カニ・イカが挙げられます。
接触皮膚炎症候群では、チクチク感やかゆみといったごく軽症のものから、全身のじんましん、喘息症状と重症化し、アナフィラキシーショックにまでなることがあり、注意が必要です。
アレルギー性皮膚炎
個人差があるかぶれです。感作といって、その物質を攻撃の対象だと認識してしまうと、ある特定の物質に接触することで症状を発症します。
症状は、接触した皮膚の範囲を超えることがあり、強いかゆみや赤み、盛り上がり、ブツブツ(丘疹)、水ぶくれ(水疱)などで、接触し続けると症状が悪化することが知られています。
美容師では、染毛剤のパラフェニレンジアミン、パーマ液中のチオグリコール酸ナトリウム、シャンプー中の界面活性剤、医療従事者では加硫酸促進剤、清掃業ではビニール手袋中の可塑剤、エステティシャンでは香料など、さまざまな原因物質が存在しますが、すべての方がかぶれるわけではありません。
パッチテストで診断します。
エポキシ樹脂によるかぶれ
光アレルギー性皮膚炎
上記のアレルギー性皮膚炎のような機序ですが、ただ物質に接触しただけではかぶれず、そこに紫外線などの光線照射が加わった結果、アレルゲンとなり、かぶれを引き起こす物質です。
香料や紫外線吸収剤などの限られた物質で生じます。
接触皮膚炎症候群
ある物質に感作され、再度接触したときに、接触したところ以外にも症状が起こり、やがて全身に症状がでるものです。
全身接触型皮膚炎
金属アレルギーなどで、皮膚に接触しただけでなく、口から入るなどで体内に取り込まれて、皮膚に症状がおこる皮膚炎です。
protein contact dermatitis
症状は湿疹症状ですが、検査でパッチテストではなく、プリックテストで診断する点が、アレルギー性皮膚炎と異なります。調理師など、食品を扱う業種で考えるべき皮膚炎です。
血液検査
末梢血好酸球
気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、じんましんで増加が見られることがあります。これが高いからと言って、しごとのかぶれと断定することはできませんが、体のなかでどのくらいアレルギー反応が起こっているのかという指標になります。
一部の接触蕁麻疹の即時型といわれるアレルギーでは、血液検査でIgE RASTといって、項目別にアレルギー検査ができます。スギ・ヒノキ・シラカンバなどの花粉や、モモ・バナナといった果物で検査ができます。しかし、一般的に多い接触性皮膚炎ではこの血液検査はあまり意味がないことがおおく、金属アレルギーなどもこの検査では測定できません。
皮膚検査
パッチテスト
背中やうでなどに、小さな絆創膏にアレルゲンを染み込ませて貼り付け、48時間後にかぶれていないかみる検査です。時間がかかって陽性になる場合もあるので、1週間後にも判定する場合があります。
パッチテストについての詳しい説明はパッチテストの項目もご参照下さい。
医療者の方へ:パッチテスト推奨濃度は職業性皮膚疾患NAVIをご参考にしてください。
オープンパッチテスト
皮膚への刺激がつよい物質の場合には十分に薄めて貼り付けるか、オープンパッチといって絆創膏にはりつけずに、直接肌にぬって、15~20分間おいておき、赤くならないかを直後と48時間後、72時間後に判定します。
光パッチテスト
通常のパッチテストに加えて、紫外線照射も同時におこなう検査です。光接触性皮膚炎の診断に用います。
ROAT
同一薬品をくりかえし同じ部位にぬって赤くならないか見る検査です。
プリックテスト、皮内テスト
蕁麻疹型の場合におこないます。症状が強く出たことがある方の場合には、アナフィラキシーショックを起こす可能性があるので、点滴をしながら、血圧や心電図をつけた状態で行うことが望ましい検査です。
スケジュール
検査当日 貼付(パッチテストを背中などに貼ります。)
検査翌日 貼付後は汗をかかないように過ごす
検査2〜3日後(72時間後) 1回目判定
検査1週間後 2回目判定 結果説明
検査の準備
塗り薬や飲み薬を続けていると、判定が正しくできないことがあります。
医師の支持に従い、パッチテストの前に休薬すべき薬が無いかを確認しましょう。
これらの薬剤の中止が望ましい場合があります。
ステロイドや免疫抑制剤、抗ヒスタミン薬の内服
貼付予定部位(背中や二の腕など)への塗り薬の塗布
貼付後はなるべく防水で過ごしたほうがいいので、検査前にシャワー浴などを済ませておくと良いかもしれません。
貼付している間の注意点
パッチテストは通常、1cm程度の四角や丸の形の土台に試験する薬剤などを染み込ませたものをテープ剤で貼る「クローズドパッチテスト」で行うことが多くあります。
しっかりと判定日までに密着して貼っておくことが大切であるため、背中に貼ることが多いです。
特にかぶれやすいものや刺激のつよいものは、「オープンパッチ」と言って、うえにテープを重ねないこともあります。
また、日光の光に刺激されてしまうと、結果が正しく出ないことがありますので、日焼けはしばらく避けるようにしましょう。
パッチテストではあなたが日頃つかっている物質を持ち込んで頂いて検査する「持ち込み品での検査」と、医療機関で用意する「パッチテストパネル検査」や「金属スタンダード検査」があります。
医療機関で用意できるものにはその機関によって差がありますが、ここでは、日本で汎用されている「ジャパニーズベースラインシリーズ」について説明します。
このシリーズは、日本免疫アレルギー学会が日本人に多いかぶれの統計をとって作った日本人用のパッチテスト検査であり、接触皮膚炎の最初の検査として大変有用な検査となっています。
このサイトでも、このシリーズについて詳しく説明しておりますのでご参照ください。
2. ラノリンアルコール Lanolin alcohols(Wool wax alcohols)
3. フラジオマイシン硫酸塩抗生物質外用剤 Fradiomycin sulfate(Neomycin sulfate)
4. 重クロム酸カリウム Potassium dichromate
5. カインミックス(アミノ安息香酸エチル、ジブカイン塩酸塩、テトラカイン塩酸塩)Caine mix
6. 香料ミックス (α-アミルシンナムアルデヒド、イソオイゲノール、ケイ皮アルデヒド、オイゲノール、ケイ皮アルコール、ヒドロキシシトロネラール、ゲラニオール、オークモス)Fragrance mix
7. ロジン Rosin (Colophony)
8. パラベンミックス (パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸ベンジル)Paraben mix
10. ペルーバルサム Balsam of Peru
11. 金チオ硫酸ナトリウム金属 Gold sodium thiosulfate
12. 塩化コバルト金属 Cobalt chloride
13.p-tert-ブチルフェノールホルムアルデヒド p-tert-Buthylphenol formaldehyde resin
14. エポキシ樹脂樹脂接着剤 Epoxy resin
15. カルバミックス (ジフェニルグアニジン、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)Dithiocarbamate mix
16. 黒色ゴムミックス (N-イソプロピル-N'-フェニルパラフェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N'-フェニルパラフェニレンジアミン、N,N'-ジフェニルパラフェニレンジアミン)PPD black rubber mix
17. イソチアゾリノンミックス (5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)Kathon CG
19. メルカプトベンゾチアゾールゴム硬化剤ゴム製品 (ブーツ、靴、ゴーグル、マット、ウェットスーツ、医療用手袋など)Mercapto mix
20. パラフェニレンジアミン染料 p-Phenylenediamine
21. ホルムアルデヒド Formaldehyde
22. メルカプトミックス (モルホリニルメルカプトベンゾチアゾール、N-シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアミド、ジベンゾチアジルジスルフィド)Mercapto mix
23. チメロサール水銀化合物 Thimerosal
24. チウラムミックス (テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジスルフィラム、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド)Thiuram mix
詳しくは項目別に記事を作っていますので、そちらをご参照ください。
重症度に応じた対応法
軽症:紅斑局面が20%以下で、亀裂がない
保護手袋を適切に着用しましょう。また、アレルゲンとなる原因物質を触ったときにはすぐに洗い流すようにこまめに手洗いをします。
また、仕事の前後でハンドクリームで保湿をすることも肌に直接付着させることをふせぐためにも有用です。
中等症:紅斑局面が40%以下 または 亀裂がある
皮膚科受診をおこない、ステロイド外用の処方を受けたほうが良い場合が多いです。保湿剤のみでは対応できず、重症化したり、接触皮膚炎症候群となってしまうことがあります。
ステロイドはstrong~very strongが用いられることが多いです。
重症:紅斑局面が40%以上
皮膚科受診が必要です。皮膚から有害物質が吸収されてしまう恐れがあります。
大原則!:接触の機会を少なくする。
アレルゲンが直接皮膚に接触することによって生じる、皮膚の損傷等の皮膚障害や、体内への経皮による吸収によって生じる健康障害を防止するためには、アレルゲンへの接触の機会をできるだけ少なくすることが必要です。
どうしても接触しなくてはならないときに適切な手袋を使う。
しかし、どうしても、作業の性質上本質的なばく露防止対策を取れない場合には、作業に適した手袋や保護具を選択する必要があります。
正しく装着、安全に外し、定期的に交換することが重要です。
ただし、手袋自体が職業性接触皮膚炎や職業性接触蕁麻疹の原因になることもありま す。また、密閉された手袋内に入りこんだアレルゲンや刺激物質は接触皮膚炎をおこしやすいため、穴あき(しみ込み)の有無に注意が必要です。
保湿剤によるスキンケア
健康な皮膚には角層のバリア機能があり、水分の蒸発や外からの刺激を防いでいます。しかし、皮脂、 天然保湿因子、角質細胞間脂質といった水を保持する物質は有機溶剤に溶け出してしまうので、これらが不足して皮膚が乾燥した状態(ドライスキン)になり、角層が剥がれて隙間ができ、外からの刺激を受 けやすくなるのです。 保湿剤は、皮膚の水分が逃げないように“ふた” をしたり、皮膚に水分を与えたりする役割を持っています。
スキンケアの方法
保湿剤には軟膏、クリーム、ローションなど様々な種類があります。夏はさっぱりとして使用感がいいローション、 冬は皮膚を保護する効果が高い軟膏やクリームなど、季節や症状に合わせて選ぶとよいでしょう。
軟膏やクリームは、人差し指の先から第一関節まで 伸ばした量、ローションは、1円玉くらいの量を目安とし、この量で、大人の手のひら約2枚分の面積に塗 るのが適切です。ティッシュが皮膚に付く、または皮膚がテカる程度も使用量の目安になります。
手袋は感染防止や、食品加工、清掃や家庭での手荒れ防止を目的として幅広く使用されていますが、密着した状態で使用されるため、手袋に含まれる物質によって接触皮膚炎が引き起こされることが知られています。
・手袋の種類
天然ゴムやニトリルゴム、クロロプレンゴムなどを材料とするゴム手袋と、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレンなどを材料としたプラスチック手袋に大別される
・ゴム手袋
ラテックスなどの天然ゴムを材料とする手袋では、アナフィラキシーショックなどを引き起こすことがあります。ラテックスアレルギーは血液検査やプリックテストで検査することができます。
また、ゴム手袋全般に含まれている加硫促進剤(メルカプト系化合物、チウラム系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、チオウレア系化合物)や老化促進剤といった添加剤が、接触皮膚炎の原因となる事があり、これが皮膚炎を引き起こしているかどうかについては、パッチテストが有用です。
現在、加硫促進剤が含まれないような手袋も開発が進んでいます。
・プラスチック手袋
ポリ塩化ビニル手袋による接触皮膚炎の報告があるが、手袋全体の接触皮膚炎の報告の中では少ない。
まずはお近くの皮膚科に受診または問い合わせを行って、パッチテストができるかどうか聞いてみましょう。
職業性の接触皮膚炎は治療に時間がかかることもあります。原因が一つだけでなかったり、日用品や汗・季節などによっても症状は移り変わります。根気よく、スキンケアなどをしていく必要がありますので、通院しやすいことも一つ大切なことです。
かかりつけの皮膚科でパッチテストが難しい場合には、下記のリンクが参考となるかもしれません。
受診する際には、電話などで実際にパッチテストなどを行っているか問い合わせをしてから受診されることをオススメします。
サイト内の専門医を探すから、お住まいの近隣のアレルギー専門医が検索できます。
「アレルギー対策基本法」施行に伴い、アレルギー疾患医療拠点病院が、全国で構築されています。
わかってもすぐに症状が良くなるわけではないので、
職場に産業医がいるときには、情報共有カードを使って、主治医と産業医が連携をとりやすくし、保護具の見直しや作業環境をみなおすようににしましょう。
また対策を講じても症状が改善しない場合には、アレルゲンと考えられる物質を他の物質へ変更するなどの措置を講じてもらえないか相談してみることも良いかもしれません。
また、症状が重症化しそうな場合には、配置転換などの措置も検討します。