仕事で感作されるアナフィラキシー ― 職場で覚えたアレルギーが、家の食卓で出ることがあります
このサイトでは、かぶれ(遅れて出る湿疹)を中心に扱ってきました。
ここでは、その反対側の話をします。触れて数分で起こり、皮膚だけで終わらないことがある反応です。そのなかでも、仕事をしているうちにアレルギーを「覚えてしまう」タイプを取り上げます。
【まず、遅いものと速いものを分けます】
・かぶれ(アレルギー性接触皮膚炎):触れて1〜2日してから、湿疹として出ます。調べるのはパッチテスト
・接触蕁麻疹・タンパク質接触皮膚炎:触れて数分から30分で、かゆみ・赤み・みみず腫れが出ます。調べるのはプリックテストと血液検査
速いほうは、皮膚にとどまらないことがあります。口のかゆみ、くしゃみ、せき、息苦しさ、腹痛、めまい。複数の臓器に及べばアナフィラキシーです。
【「仕事で感作される」とは】
アレルギーは、原因物質に何度も触れるうちに体が「覚える」ことで起こります。これを感作といいます。
ドイツのアレルギー学会は2024年に、職業性アナフィラキシーの考え方を整理しました。ポイントは次の2つです。
・仕事で感作され、職場で反応が出たもの(養蜂家のハチ、調理師の食品など)
・仕事で感作され、職場の外で反応が出たもの
後者も職業性として扱う、としています。職場で覚えたアレルギーが、休日の食卓や病院で出る。この順番があるからです。
【入り口は、荒れた手です】
横浜市立大学の報告があります。同じ食品による接触蕁麻疹が先にあり、その後に食物アレルギーを起こした成人15人を調べたものです。
・15人中14人は、仕事の調理中に接触蕁麻疹が始まっていました
・原因は米、小麦、果物、野菜、魚、エビ、イカなど
・仕事を始めてから接触蕁麻疹が出るまで、平均8.7年
・接触蕁麻疹から、食べて症状が出るまで、平均11か月
・15人中13人(87%)に、アトピー性皮膚炎か手湿疹がありました
・寿司職人の1人は、魚を食べてアナフィラキシーショックを起こしています
手荒れで皮膚のバリアが壊れていると、食品のタンパク質が皮膚から入り、感作が起こりやすくなります。
仕事ではありませんが、日本では加水分解小麦を含む洗顔石けんで小麦アレルギーになった人が多数出ました。皮膚から覚えたアレルギーが、食べて出る。同じしくみです。
【誰に起こりやすいか】
〈調理師・食品加工 ― 魚介・小麦・野菜〉
報告が最も多いのは、魚介を扱う調理師と食品加工の作業者です。魚、エビ、カニ、イカ。小麦粉、そば粉、野菜、果物も原因になります。
生のまま扱う食材ほど感作されやすく、上の15人でも6割は加熱したものなら食べられました。
〈医療従事者 ― ラテックスと消毒薬〉
天然ゴムのラテックス手袋で感作されると、手袋でじんましんが出るだけでなく、手術や処置で粘膜に触れたときに重い反応が起こり得ます。
さらに、ラテックスと似た成分をもつアボカド、バナナ、クリ、キウイを食べて症状が出ることがあります(ラテックス・フルーツ症候群)。職場で覚えたアレルギーが、食卓で出る典型です。
これは減らせます。ドイツでは、医療機関がパウダーフリーで低タンパクの手袋に切り替えた後、ラテックスによる職業性アレルギーの届け出が全国規模で減り続けました。
消毒薬のクロルヘキシジンでも報告があります。20年以上勤めた歯科医師が、職場で重いアナフィラキシーを起こした例です。
〈養蜂 ― ハチ毒〉
養蜂を新しく始めた35人を5年間追跡したギリシャの研究では、29%(10人)がミツバチ毒に感作されました。養蜂をしない人では8%です。
感作された10人は全員、始めて1年半以内に見つかっています。最初の1〜2年が要注意です。
〈実験動物を扱う人 ― かまれて〉
米国の実験動物施設の調査で、ネズミなどにかまれてアナフィラキシーを起こした例が14件集まりました。半数は、それまで動物アレルギーの自覚がありませんでした。
〈屋外で働く人 ― マダニと肉〉
マダニにかまれることで、牛・豚などの肉に含まれる糖(α-Gal)に感作されることがあります。肉を食べて数時間後に、じんましんや腹痛、アナフィラキシーが出ます。
米国の農業従事者201人の調査では、診断がつくまでに平均3回近く受診していました。時間がたってから出るため、肉と結びつかないのです。
【順番に気づけば、止められます】
仕事で感作されるアレルギーは、多くの場合、段階を踏んで進みます。
①手荒れ
②触れたところがすぐかゆくなる、赤くなる(接触蕁麻疹)
③食べたときに口や喉がかゆい
④全身のじんましん、息苦しさ(アナフィラキシー)
②の段階で気づけば、③④へ進む前に手を打てます。「手が荒れているだけ」「かゆいだけ」の段階が、いちばん大事なタイミングです。
また、運動・飲酒・解熱鎮痛薬・寝不足などが重なると、いつもは平気な量で反応が出ることがあります。
【現場でできること】
・手荒れを治しておく。入り口をふさぐことが、いちばんの予防です
・生の魚介や野菜を長時間扱うときは手袋を使う。手袋はラテックスでないもの、パウダーフリーのもの
・触れて数分で出た症状は、その日のうちに記録する。何に触れたか、どこに出たか、何分後か
・一度でも全身症状(息苦しさ、声のかすれ、めまい、腹痛、意識が遠のく)が出たら、次はもっと重くなり得ると考える
・診断を受けた人は、アドレナリン自己注射薬を職場に置き、場所を同僚が知っているようにする
・養蜂やハチの多い屋外作業では、減感作療法の適応を相談する
・屋外作業では、長袖・長ズボンでマダニを防ぐ
【受診するときに伝えること】
・何分後に出たか(これで遅いものと速いものが分かれます)
・仕事の内容と、扱う食材・動物・手袋・消毒薬
・仕事で触れるものと、症状が出たときに食べたもの・触れたものが同じかどうか
・手荒れの有無と、いつからか
・皮膚以外の症状の有無
【最後に】
「手がかゆくなるだけ」と言われてきた人の中に、速い反応の人が混ざっています。そして、それが仕事で覚えたアレルギーであることがあります。
パッチテストだけでは見つかりません。数分で出るかどうか、そして仕事で触れているものと同じかどうかを、ぜひ確かめてください。
関連記事:(文献紹介16)漁師の皮膚に何が起きているか/(文献紹介17)食品を扱う人の21年間/職業別-医療従事者/扱うもの別-手袋/職業別-調理師
【参考文献】
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