水仕事の手荒れ(後編)― 減らす、守る、治す
前編で、水そのものが手を荒らす仕組みを書きました。後編は対策です。順番が大事で、まず減らす、次に守る、それでも荒れたら治す、です。
【1. 減らす ― 少しでも効く】
デンマークで水仕事による職業性手湿疹と認定された954人を4〜5年後に追跡した研究があります。転職した人は治癒・改善の割合が高かった。これは予想どおりです。
大事なのはその先で、手が濡れている時間と手洗いの回数が少し減っただけでも、治癒・改善と関連していました。 用量反応の関係です。仕事を辞めなくても、曝露を減らせば効きます。
減らし方の例です。
・濡れる作業と乾いた作業を、交代で分ける
・洗い物をまとめて一度にする(細切れに何度も手を濡らさない)
・食器洗浄機、長柄のブラシなど、手を濡らさない道具に替える
・不要な手洗いをやめる。手袋を外した直後の手洗いは、手が汚れていなければ省く
【2. 手洗いをアルコール消毒に置き換える】
前編で書いたとおり、手洗いの回数は手湿疹のリスクを上げますが、アルコール手指消毒は上げません。
理由はこうです。石けんと水は、洗うたびに角層の脂質を洗い流します。アルコールは一時的に皮膚を乾かしますが、脂質を持ち去る力は洗剤よりずっと弱い。さらに、研究を集めてみると、アルコールの刺激は、洗剤での頻回な手洗いより小さいという結論でした。
米国接触皮膚炎学会(ACDS)も、目に見える汚れがなければ石けんよりアルコール消毒を優先するよう勧めています。
注意がひとつ。濡れた手にアルコールをつけると刺激が強くなります。 水に浸かった直後の皮膚にアルコールを繰り返し塗ると、バリアの指標が悪化する実験結果があります。手を洗ったあとに重ねて消毒するなら、しっかり乾かしてから。
【3. 洗い方】
・お湯よりぬるま湯。熱いほど脂質が溶け出します
・洗剤は少なめに。泡立てた泡で洗い、こすらない
・洗ったあとは指の間まで拭く。濡れたまま放置するのがいちばん荒れます
・手の甲や指の付け根に洗剤が残りやすい。すすぎは意識して
【4. 手袋 ― 守るはずが荒らすことがある】
手袋は水と洗剤から手を守ります。ところが密閉性の手袋を長時間つけると、中で汗がこもり、手は「水に浸かっている」状態になります。
実験で確かめられています。洗剤で荒らした皮膚に6日間、ビニール手袋をかぶせると、何もかぶせない場合より回復が遅れました。ところが綿の手袋を下にはさむと、何もかぶせない場合と同じ速さで回復しました。
使い方の原則です。
・必要な作業のときだけつける。つけっぱなしにしない
・綿のインナー手袋を下に重ねる。インナーは汗で湿ったら替える
・一度に長くつけない。外して乾かす時間をとる
・手袋の中に水が入ったら、その場で外して乾かす
・ゴム手袋そのものにかぶれることがあります(加硫促進剤)。手袋をつけている部分に一致して赤くなるなら、手袋を疑います
【5. 保湿 ― 作業の後に、必ず】
保湿剤は失われた脂質と水分を補います。タイミングは水仕事のあとと寝る前。作業の前に塗る「保護クリーム」は、使うなら作業後の保湿と組み合わせます。
ワセリンや尿素・ヘパリン類似物質を含むものなど、どれでもかまいません。続けられるものがいちばんです。職場に1本、自宅に1本、かばんに1本。手に届くところに置くことが、続けるコツです。
【6. 教育の効果は薄れる】
医療従事者に皮膚保護の教育プログラムを行った研究では、5ヶ月後には効果がありましたが、3年半〜4年後には対照群と差がなくなっていました。著者らは定期的に繰り返すことを勧めています。
一度聞いて終わりではなく、職場で年に一度は手の話をする。産業医や衛生委員会の場が使えます。
【7. 治す】
ここまでやっても荒れが引かない、かゆみがある、割れて痛い、皮膚が硬くなってきた。そうなったら皮膚科へ。
基本の治療はステロイド外用薬です。強さは症状と部位に合わせて医師が選びます。手のひらは角層が厚いので、顔に使うような弱いものでは効きません。「ステロイドは怖い」と薄く塗って長引かせるより、適切な強さで短期間に治すほうが、結果的に使う量は少なくなります。
治療と並行して、原因の検査をします。パッチテストで接触アレルギーの有無を調べます。前編で書いたとおり、水仕事の手荒れは新しいアレルギーの入り口になるからです。「ずっと水仕事のせいだと思っていたら、ゴム手袋のアレルギーが加わっていた」という人は少なくありません。
【新しい治療薬】
重症例では、アトピー性皮膚炎に使われる注射薬(デュピルマブ)が慢性手湿疹にも効果を示した報告が増えています。
【治りにくい人の特徴】
職業性手湿疹1491人の追跡で、5年後に完全に治っていたのは19.3%でした。慢性化しやすい病気です。治癒を妨げていたのは喫煙とストレス、助けていたのは運動と転職。
逆に言えば、早く手を打つほど治ります。 「手荒れくらいで」と数年放置してからでは、治療も長くなります。
【受診の目安】
・保湿と手袋で2週間たっても良くならない
・かゆみで眠れない、割れて痛い
・手のひら・指の腹が硬くなってきた
・手袋の形に一致して赤い
・仕事を休むと良くなり、戻ると悪くなる(職業性の目安です)
受診のときは、一日に何回手を洗うか、手が濡れている時間、手袋の種類と時間、使っている洗剤と消毒剤を伝えてください。これだけで、調べる方向がかなり絞れます。
関連記事:水仕事の手荒れ(前編)/あつかうもの別-手袋/ラテックスアレルギー/職業別-医療従事者/(文献紹介5)保護クリームの正しい使い方
【参考文献】
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