水仕事の手荒れ(前編)― なぜ荒れるのか、どこからが「水仕事」なのか
このサイトで扱う「仕事のかぶれ」のうち、いちばん多いのがこれです。調理師、美容師、看護師、介護、清掃。原因物質を調べる前に、まず水そのものが手を荒らすことを知っておく必要があります。
【どのくらいの人に起きているか】
世界66研究・56万8100人をまとめた2021年のメタ解析では、一般の人の手湿疹の1年有病率は9.1%、生涯では14.5%でした。女性は男性の1.5〜2倍。発症は20代前半から半ばが多く、約3分の1にアトピー性皮膚炎の既往があります。
医療従事者に限ると、18研究のメタ解析で1年有病率は27.4%。4人に1人です。
【「水仕事」の定義】
ドイツの労働安全基準(TRGS 401)では、次のいずれかを「水仕事」としています。
・手が濡れている時間が1日2時間以上
・手洗いが1日20回以上
・密閉性の手袋の着用が1日2時間以上
この「2時間」には根拠があります。デンマークの職業別曝露データベースを使った研究では、手が濡れている時間が1日2時間を超えると、手湿疹のオッズ比は女性で3.49、男性で2.41でした。手袋の着用2時間でも女性3.19、男性1.82。ただし著者らは、2時間未満でもリスクは上がると結論しています。線を引くための数字であって、安全圏の数字ではありません。
【手洗いの回数】
45研究のメタ解析です。手洗いが1日8〜10回以上で手湿疹の相対リスクは1.51、15〜20回以上で1.66。回数が増えるほどリスクも増えます。
一方、アルコール手指消毒は手湿疹と関連しませんでした。手を洗うより、アルコールで消毒するほうが手には優しい。直感と逆ですが、複数の研究で一致しています。理由は後編で書きます。
【なぜ水で荒れるのか】
皮膚のいちばん外側、角層は「角質細胞」と、そのすき間を埋める「細胞間脂質」でできています。レンガとモルタルにたとえられます。
水に浸かると角質細胞は水を吸って膨らみます。乾くと縮みます。これを一日に何十回も繰り返すと、モルタルにあたる脂質が流れ出し、レンガの並びが乱れて、すき間ができます。
さらに、手のひらには皮脂腺がありません。体のほかの場所と違って、失った脂を自前で補えません。温水と洗剤はこの脂質をいっそう溶かし出します。
密閉性の手袋も同じです。手袋の中で汗がこもり、手は「水に浸かっている」のと同じ状態になります。実験でも、水への浸漬と密閉の両方が皮膚の刺激反応を強めることが示されています。
【荒れた皮膚は「入り口」になる】
バリアが壊れた皮膚からは、ふだんなら通さない物質が入ります。ゴム手袋の加硫促進剤、香料、防腐剤。健康な皮膚なら何ともなかった物質に、荒れた皮膚で新しくアレルギーを作ってしまうことがあります。
「水仕事の手荒れ」で始まった人が、数年後に「ゴム手袋のアレルギー」になっている、というのは珍しくありません。手荒れを放置しない理由のひとつです。
【どんな症状か】
最初は乾燥と、指の付け根のかさつき。次に指の背側や手の甲が赤くなり、かゆみが出ます。進むと皮膚が硬くなり、関節のしわに沿って割れます。
指先に出るタイプがあります。利き手の親指・人差し指・中指の指の腹から始まり、皮膚が硬く、てかって、指紋が消え、割れます。かゆみは少なく、冬に悪化します。日本では「進行性指掌角皮症」と呼ばれ、水仕事と指先を酷使する仕事の人に多い型です。海外では刺激性手湿疹の一型として扱われます。
【体質と生活の影響】
アトピー性皮膚炎の既往は、手湿疹になりやすさの代表的な要因です。ただし治りにくさには、最近の研究では別の因子が効いていました。デンマークの職業性手湿疹1491人の追跡では、喫煙と高いストレスが治癒を妨げ、運動習慣は治癒と関連していました。アトピー素因と接触アレルギーの有無は、予後に有意な影響がありませんでした。
オランダの一般住民5万7046人の調査でも、1日8本以上の喫煙、慢性ストレス、BMI 30以上、腹囲90 cm超が手湿疹と関連していました。
【前編のまとめ】
・手が濡れている時間、手洗いの回数、密閉手袋の時間。この3つが「水仕事」の中身です
・2時間・20回が目安ですが、それ未満でもリスクはあります
・手のひらは皮脂を補えません。水と洗剤と温水で脂質が流れ出します
・荒れた皮膚は新しいアレルギーの入り口になります
・喫煙とストレスは治りを遅らせます
後編では、どうやって減らし、どう守り、どう治すかを書きます。
関連記事:水仕事の手荒れ(後編)/職業別-医療従事者/職業別-清掃・介護の仕事/職業別-美容師/あつかうもの別-手袋
【参考文献】
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