あつかうもの別:セメント ― かぶれと、やけどと、クロム
建設、左官、土木、コンクリート製品の工場。それに、日曜大工やDIY。
セメントによる皮膚の問題は、3つに分けて考えます。
・水と摩擦とアルカリによる刺激(手荒れ)
・セメントに含まれる六価クロムによるアレルギー
・湿ったセメントによる化学熱傷
原因も、出かたも、対策も別のものです。
【1つめ:まず、刺激で荒れます】
湿ったセメント、砂、粉じん、そして手袋の中の汗。手の甲と指の関節が厚くなり、手のひらが硬くなります。
台湾でセメント作業者97人を調べた報告があります。
・65人に手の皮膚炎がありました
・内訳は刺激性43人、アレルギー性22人
・パッチテストで重クロム酸カリウム陽性が24人、チウラムミックス9人、香料ミックス9人、塩化コバルト7人
多数派は刺激性です。まずここを減らすのが基本になります。
【2つめ:六価クロムのアレルギー】
セメントの原料と製造工程に由来して、六価クロムが含まれます。これが昔から「セメント皮膚炎」と呼ばれてきたものの正体です。
一度感作されると、微量でも反応します。手の甲、指、前腕に出て、粉じんを浴びる作業では顔にも出ます。
〈減らす方法は、すでに分かっています〉
セメントに硫酸第一鉄を加えると、六価クロムが三価に還元されて溶けにくくなります。
デンマークは1981年に、セメントの水溶性クロムを2ppm以下に下げました。コストの増加は約1%です。1981年と1987年にコンクリート製品工場の作業者を比べたところ、クロムアレルギーと手湿疹がはっきり減りました。刺激性の手荒れの頻度は変わっていません。アレルギーだけが減った、ということです。
EUは2005年に同じ規制(水溶性六価クロム2ppm以下)を導入しました。英国の職業性皮膚疾患のサーベイランスでは、規制前(2002〜2004年)と規制後(2005〜2009年)で、クロムによるアレルギー性接触皮膚炎の発生率が0.48倍に減りました。セメントに曝露する職種に限ると0.37倍です。減少の大部分は2005年に起きています。
制度で減らせる病気だったということです。
〈日本はどうか〉
日本には、EUのような「セメント中の水溶性六価クロムを2ppm以下にする」という皮膚のための規制はありません。国内で六価クロムが制度として扱われているのは、主に土壌・地下水への溶出の問題です。
ですから、使っているセメントのクロム量は製品によって違います。SDSを確認してください。
【3つめ:湿ったセメントは、やけどになります】
これが見落とされます。かぶれとはまったく別のものです。
湿ったセメントは水酸化カルシウムを生じ、強いアルカリになります。皮膚に触れ続けると、化学熱傷を起こします。
・短時間の接触でも、広い範囲の傷になることがあります
・その場では痛みが軽く、気づくのが遅れます
・膝をついてコンクリートをならす、長靴やズボンの中に入ったまま作業を続ける。この状況で深くなります
ドイツからの8例の報告では、多くが専門の作業者ではなく、日曜大工でセメントを使った人でした。慣れていない人ほど危険です。
濡れたまま放置しない。これに尽きます。付いたらすぐ大量の水で洗い、衣服や長靴の中に入ったらその場で脱ぎます。
【出てしまったあとの見通し】
クロムによる皮膚炎は、治りにくいとされてきました。
スイスの報告です。重症の職業性クロム皮膚炎で、行政が「セメント・クロムに触れる作業を禁じる」判定を出した建設作業者88人を追跡したところ、72%(63人)が数年以内に治っています。多くは業種そのものを変えた人でした。
裏を返せば、曝露を断てれば治る可能性があるということです。「治らない病気」ではなく「曝露が続くと治らない病気」です。
早い段階で相談してください。
【クロムは、革からも来ます】
デンマークでは、セメント規制のあとクロムアレルギーが一度減りましたが、2000年代に再び増えました。
パッチテストを受けた患者で、原因として意味のあるセメント曝露は12.7%から3.0%に減った一方、革の曝露は24.1%から45.5%に増えていました。
安全靴、作業手袋、ベルト。クロムなめしの革です。「セメントはもう触っていないのに治らない」ときは、足元と手袋を疑ってください。
【現場でできること】
・湿ったセメントに素手で触れない。長時間の作業では防水の手袋
・膝をつく作業は膝当てを使う。長靴やズボンに入ったら、作業を止めて脱ぐ
・付いたらすぐ大量の水で洗う。痛みがなくても洗う
・粉じんの多い作業では顔も守る。作業後に洗顔する
・手袋の中が濡れたら替える。乾く前に保湿する
・使っているセメントのSDSで、クロムの記載を確認する
・DIYでセメントを使う人にこそ伝える。袋の注意書きを読む
【受診するときに伝えること】
・作業の内容(左官、打設、解体、コンクリート製品の製造など)と、始めた時期
・休日や休職中に軽くなるかどうか
・安全靴と作業手袋の素材(革かどうか)
・やけど状の傷なら、いつ、どれくらいの時間、濡れたセメントが付いていたか
関連記事:職業別-メッキ作業・化学工場/文献紹介3: ニッケル、コバルト、クロムアレルギーと職業の関連性/パッチテストパネル-重クロム酸カリウム/扱うもの別-手袋
【参考文献】
Wang BJ, et al. Occupational hand dermatitis among cement workers in Taiwan. J Formos Med Assoc 2011;110(12):775-779.
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Koch P. Skin burns, necrosis and ulcers caused by wet cement, ready-mixed concrete and lime. 8 cases. Ann Dermatol Venereol 1996;123(12):832-836.
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